いつの間にか俺たちはビルの屋上に辿り着いた。
 エレベーター乗って非常階段に出て進入を阻む鉄柵をたった二人で乗り超えた。何かを求めたわけじゃなかったし意味とか定義は頭になかった。 ただ俺の隣には赤星がいた。そうすることの当然さ知ってるみたいにこんなとこまで着いて来た。だから俺には行動の意味さえ必要じゃなかったのかもしれない。 十二階建ての屋上からこの街を見下ろす。そこにあるのは俺たちが日常を送る景色だった。人も車もおもちゃみてーに小さい。こんだけの高さを手に入れたってだけでその 全体が見慣れないものに思えてくるから不思議だ。赤星はいつも通りやっぱ変な顔で、何考えて何見てんだか俺にはさっぱり分からなかった。でもそんなことどうでもよくて 、俺たちはこの広い世界の中でただひっそり寄り添った。
 好きとか愛してるとか、そういうのが必要だとは感じなかった。空に浮かんでたはずの太陽がゆっくり沈んでく。全部が赤く染まった。雲も電車も玉川通りの交差点も。 俺たち二人もこの夕焼けに焦がされた。 いつまでこんな無意味なことを繰り返してられんだろう。太陽はゆっくり、だけど確実に、俺の意識とはまったく別の所で遠ざかろうとしてる。 それをこの目に見ながら永遠に終わらないことを俺は願った。
 明日が来ることを待ち望んで、今日が終わることを痛烈に惜しんだ。何でだかこういう矛盾を手放せなかった。永遠なんてないと知りながら、いつだって永遠を探してた。
 俺はわけも分からず泣きたくなった。だけど涙は流れなかった。何の脈絡もなく握られた手が、思いのほか心地良かった。俺はその手を振り解かなかった。こいつのやり方に流されるのも悪くないと思った。二人でこのまま 焼き尽くされるとしてもここから逃げ出す気にさえならないんだろう。
「全部燃えてなくなりゃいい」
 赤星が言った。街の騒音に奪われそうな声だった。それでも迷うことなく、真っ直ぐ俺の奥まで届いた。本当に泣きたかったのはこいつの方だったのかも しれない。そう思って、不覚にも考えるより先に繋がれた手を握り返してた。
「閉じ込めた」
 俺に応えるみてーに手に力を込めた赤星が主語を飛ばしてそう言った。何をって聞いたら、赤星は俺に聞かせるためだけにもう一度声を出して、俺の耳から呆気なく 街の音を奪ってった。赤い色と消える夕陽は きっともうすぐ夜をつれてくる。
 かさねた手のひらの中に閉じ込めたのは一瞬。誰も知ることが出来ない、俺と赤星だけに許された時間。それは日常より複雑で、永遠より ずっと確かだ。夕焼けがだんだん姿変えてく。
 赤い色が目の前から消えても、俺たちは繋いだこの手を離さなかった。